おもちゃ屋、店をたたむ

メチャクチャにローカルな話題なのだが、新小岩の横井玩具店が閉店するらしい。
以前、駅前のルミエール商店街には二件のおもちゃ屋があったが、横井ではないもう一方の玩具店は、数年前に閉店してしまった。
横井さんは、新しいおもちゃをそろえつつも、いかにも昔ながらの個人商店といった趣であった。
店頭の看板には、いまだ任天堂ディスクシステムの書き換え看板が掲げられっぱなし。カウンターのゲーム画面には、ドットの荒いDr.マリオの画面が流れ続ける。しかしカウンターに前の棚には最新トレーディングカードが並んでおり、店頭には最新のウルトラマン玩具がならんでいる。そんな店。
そういった、どちらかと言えば地味な印象の横井だけが残ったことに、地域に根ざした玩具店の強さを見た気がしていた。
しかし、その横井の歴史もこの三月で幕を閉じるとのことだ。寂しい。
自分は決して、かの店に対してはいい客でなかった。覗くことはそれなりにはあったが、実際に利用する機会はそう多くない。
売店だから割引があるわけでもなく、見ているだけのションベン客であることがほとんど。
しかし、おもちゃ屋さんらしいおもちゃ屋さんという雰囲気はいいもので、大型量販店のそれの落ち着かなさと対照的にしっくりくるため、近くに行った場合は足を運ぶようにしていた。
客とは、勝手なものだ。自分は買わなければ損があるわけでもないし、こと東京で言えば、特定の店でのみ買わなければならないということはない。
店が閉じると聞いたらば、それまでにそう金を落としていたわけでもないのに、店の事情を考えずに、これからも続けて欲しいと思うのだから、どうにも無責任なものだ。
じゃあ、ずっとそこで買い物をしていればよかったじゃないの、みんながそうしていれば、店は続いたじゃないの、という話だ。
でもこればかりは仕方ない。資本主義って、そういうものなんだから。買いたいところで買えばいいのであり、どうせ買うなら安く買いたいのだから。
とはいえ、残念は残念。やはり続けて欲しいな、と思ってしまう。勝手この上ないが。
「閉店セール30%引き!」との表示が掲げられた店内を、フラフラと歩く。
商品の回転率がいいとは言いがたい店内を見わたして、時流にそぐわないものは、淘汰されるしかないのかと感じさせられる。やるせない。
そんな状態でも、マイブームのミニ四駆センサーは反応する。
ミニ四駆コーナーにいくつかあった「カーボン強化Xシャーシ」を全て手にとり、ニヤニヤしながら買い占めるのであった。嫌な客だな。
人間は、いや、オレは非情だね。でも、そんなもんだよ。
清算してもらいながら、棚の入れ替えを意味した閉店セールではなく、廃業としての閉店セールであることの確認や、正確にはいつごろまでの営業なのかといったことについて世間話。サバサバとした口調に悲しさは感じられないが、だからこそ寂しさを感じる。他の客も同じような質問をする機会が多い模様で、「ここがなくなったらどこで買えばいいんですか」と言う主婦もいたようだ。
また、ここで孫におもちゃを買ったおばあさんが、同じ店でひ孫にもおもちゃを買ってあげた話などが耳に入り、熱い気持ちになる。
大型おもちゃチェーン店や量販店の割引ないし限定品による大規模な商法は魅力的だが、こういった街に根ざした店がなくなるのは、どうにも忍びないね。
個人経営のおもちゃ屋が減る悲しみと、割と希少な商品を割引価格で買えた喜びを同時に噛み締めつつ、どっちつかずの表情で帰途につくのであった。